かけることのない月
小さなころは、世界はかけることのない月のように
完璧なものだと思っていた。
かけることの無い月など絵空事であるのに。
小さな世界の中でしずかに息をして、時がみちるのを待っていた。
大人になると、世界はゆがんでいたり、めちゃくちゃだったり
苦しかったり愛しかったりした。
月はかけて、クレーターもたくさん。
けれど、今のほうが一人ではないような気がする。
かけることの無い月だけの世界には私しかいなかったのだ。
時とともに鉄は錆び、体は衰えてゆく。
世界は呼吸して変わっていくものなのだ。
作り物の檻のなかであがき続けず
私は逃げ出した。
今。生き抜いてきた中で
檻の中では、想像もできなかった
ここにたどり着いたということが
私にとって最大の価値だ。
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小さなころ、本当に世界は秩序のあるものだと思っていました。
何かひとつの正しさが貫かれているようなそんな気がしていました。
不変の秩序のようなものや法則はあると思うけれど。
それとは別に、人間が単体や対面でいるときとは別に
人が群れたときの関係性には不思議なゆがみのようなものが
生まれる気がします。
パワーバランスというか、群れの秩序というか。
人の中にいると、善悪や正しいことが必ずしも正しいとはいえなくなる。
人の数だけ正しいがあるから。そして関係性があるから。
一人でいるだけだったら人とはぶつからず、世界は思いのまま。
五年前の自分と、今の自分はまったく別の人間のように思います。
何であんなに一生懸命だったのかな。
でも、ひとつも後悔はないから不思議。